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2010.11.22 【死】
Novel Stage / origina:Abyss of Time
《かくして私の苦悩は続く》
僕はぼんやり意識と無意識の狭間を彷徨っていた。
視覚は完全に閉ざされているけれど、聴覚は微かに外の音を捉え始めている。身体の感覚も既に戻ってきていたけれど、力を篭めてみても全然動かない。
そして一つだけ酷く熱く感じる。人間で言う心臓の位置、僕の動力の中心でじわりじわりと広がっていく。
苦痛ではないけれど、まるで内側から溶かされていくようで、そう。
怖い。
「…………いい加減……しろ」
末端が冷えていくような感覚を覚えていると遠くから声が聞こえた。とても聞き覚えのある、聞きたかった声。
滅多に聞かない怒りの感情を含んで、おそらく僕の耳元で響いている。
「こいつ……死んでないっ! 壊れ……死んで……いんだ!」
紫さん。
この声の調子を聞いているとあの後紫さんへ危害が加えられたということはないようで、少しほっとする。
でも、そうとわかればここで寝ているわけにはいかない。本当かどうかわからないにしても、あのルシフェルというイレイサーが言っていた事を伝えなければ。
僕は動かない身体を無理矢理動かそうとする。息はしているのに、声を出そうとすると空気が止まる喉を叱咤して側にいるはずの紫さんへ。
「……り、さ……」
掠れた音が喉から零れた。ほぼ二言しか言えていないのにとても苦しい。
けれど、周囲の物音が慌しくなった。ばたばたと走り回る音と周りで大きな唸りを上げる機械の音。
五月蝿いほどに近くで鳴る音が徐々に小さく下がっていく。
ぴぴぴぴっ、ぴぴぴぴっ。
その音が鳴った途端、周囲の音が一気に消えた。同時にアラーム音は僕がどこにいるかを教えてくれた。
紫さんの研究室。それもメンテナンスの時に使う沢山機械の置かれた部屋だ。
漸く身体が動かせるようになって僕は真っ先に目を開けた。
見慣れたコンピュータや検査機器と同時に視界へ飛び込んできたのは、白衣を翻して検査台に横たわる僕へ一直線に駆け寄ってくる紫さんの姿。
「すずなっ!」
勢いを殺さずに首へしがみついてきたので、一瞬だけ気道が締まった。
「ゆかり、さん」
「よく目を覚ましたな。よかった……本当によかった」
こんなに取り乱した紫さんは初めて見た。首筋に温かい息と濡れる気配。
「紫さん」
僕はしっかりしがみつかれたまま紫さんへ伝えたかったことを口に出す。言いたい事は沢山あったけれど、一番最初に言いたかったことはこれだった。
「心さんが……いなくなってしまいました」
そう口に出した途端、僕の胸の奥がきゅっと締まった気がした。特に何か以上が起こったわけではないのになんとなくそう感じたのだ。
「いなくなって、しまいました」
僕は何故かもう一度呟いていた。
紫さんのしがみつく力が強くなり、時折しゃくりあげるような声と腕の震えが伝わってくる。
顔も見ていないのに今の紫さんの気持ちは僕にもわかる気がした。
悲しい。
Fine.