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2010.11.25 【虚】
Novel Stage / Fun Fiction:LoV
《Void》
一度魔の軍勢に主を奪われ、更に魔の主すら奪われた魔都ルクサリア。玉座の間。
本来なら新たなる主となってもおかしくなかったであろう、魔種を統べていた蝿の女王を倒した青年は、黒い羽根飾りが肩に付けられた漆黒のコートを纏ってホールに佇んでいた。
手にはベルゼバブの残した漆黒の錫杖。雷に打たれた金色の錫杖と比べると短く、リーチの代わりに纏う力が威力を増しているようで、結局彼が持っていくことにしたのだ。
ルヴニールはあの戦闘でも無事だったステンドグラスを眺めていたが、ふと視線を床へ外す。
そして、突然思い立ったったのか。身軽にぼろぼろの黒いカーペットが敷かれた階段を跳ねるように上がっていった。
足が止まったのは玉座の前。
その豪華な椅子は流石に戦いの余波で全体の表面にうっすらひびが入り、装飾も無残に砕けてしまっている物がほとんどだった。
じゃり、と落ちた欠片を踏みしめながらルヴニールは錫杖を振り上げ。
「……ふっ!」
一瞬にして青年から迸った闇の波動が錫杖へ伝達。本来所謂魔法の力というものが低いルヴニールだが、そんな僅かな力であっても金色の錫杖の時とは比べ物にならないほどに増幅された波動は一瞬にして杖から消えて、出現する。
ざんっ!
スコップの刃を長くしたような形の黒い刃が玉座の下から数十本も出現し、数瞬前までまだ椅子としての機能を保っていた漆黒の石を粉々に打ち砕いた。
「やっぱりどっちかってーと触媒みたいな感じだなー。私でもこれだけ出せるだけでも十分だけどー」
細かい欠片を数片浴びながら青年はゆっくりと振り返り……即座に目を開くと錫杖を突き出した。
気配も空気の動きもほとんど感じ取れるものではない、が、ルヴニールは気付いた。
契約として宿したアルカナの力の一片で。
「どーかしたのかなー?」
いつも通りの笑顔を浮かべて彼は答える。喉から数センチメートルもない位置に漆黒の剣の切っ先が当てられてるとは思えないほど、変わらない笑みで。
しかし突きつけている方は動かない。気付かれたと同時に鋭く凍えるような気配を抑えずに放出している。本能的に危険を感じ取る動物であれば怯えて逃げ出すくらいに。
無言のまま動かない刃にルヴニールの笑みに少し困惑の色が混ざる。
「えーっと……戦いのときのこと、怒ってるのかなー。それに関しては正直、私あんまり覚えてないから謝るしかないんだけどー」
他に何かあったかなーと首を傾げる姿に黒翼の男性は切っ先を外さぬまま、一つの問を浮かべる。
『……お前は誰だ』
「え?」
ぽかん、と口を開ける青年。しかし、直にぽん、と手をもう片方の手にうった。
「だいじょーぶだよ。私はルヴニールのまま。パワーズちゃんの時とは何が違うかわからないけど、とりあえず引きずられることはないからー」
手をぱたぱたと振って応えるルヴニール。返ってきたのは、無言。
「うーん……」
彼は首を捻る。もしもアルカナを通じて蝿の女王が完全にルヴニールを掌握したとすれば記憶などは当てにならない。本人が意識していない癖ならば区別がつくかもしれないが、日常生活において特にそんな癖は思いつかないし、戦闘に関してはずっと訓練をつけていたのはヒルデガルドだ。
黙って剣を突きつけるカイムの前でまったく緊張感なくうんうん唸っている青年へ、男性は再び問を投げかけた。
『お前は何のために戦う』
「ふぇ?」
『過去の記憶が失われつつあることは聞いた。そしてパワーズから返されていても、お前はまだその記憶を取り戻していない』
鏡はルヴニールの中へ溶けるように消えていったが、まだ鏡のままたゆたっている。青年は漠然とそんな感覚を抱えていると鏡を渡した断罪の天使へと応えていた。
『アルカナを"元の世界へ返りたい"という願いの為に集めるお前が過去の記憶を失っているのならば』
三ミリ、切っ先が喉へ近付く。
『願いの元が虚となったお前は何のために戦う』
「もとの世界に返りたいから、だよー」
にこっと笑いながら青年は即座に応えた。
「頭で覚えている記憶だけが記憶じゃないしー。茶化されて記憶飛ぶくらい怒ったって事はきっと向こうに私は何か置いてきたんだよー」
だから、思い出すために帰る。
しばしの後。
『……』
無言のまま、しかし気配が僅かに和らいだ黒翼の男性は剣を収めた。ひとまずは納得したらしい。
それを悟った青年は、再びステンドグラスを見上げると既に背を向けてホールの出口へと歩き出した男性へと投げかける。
「次はイーラ、だねー」
To be continued...