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2010.11.26 【沼】
Novel Stage / original:Willwart
《邂逅》
黒翼の青年が呆然としていたのはそれ程長い時間ではなかった。
周囲を確認したがそれほど大きな道の側にあるわけではない。けれど人が来る程度には街に近いと言うことだ。
足元にあるごろつきの命が消えた体を放置しておくのは騒がれる可能性もあってあまりよくない。
幸いと言えるのかどうかはわからないが、とりあえず草むらへ押し込んで歩き回ると暫く山の方へと歩いた先に沼があった。
側に落ちていた枝で深度を確認。彼の持っていた枝は立ったまま残らず沈んだ。
青年は戻ると、人に見えないくらい低い位置を保ってごろつき達を浮かせた。地上世界では理と呼ばれている力だが、ほとんどの人間はその存在を知らない。ばれないにこしたことはないが、流石に背負っていくと目立ってしまう。
まるで散歩でもするように装いながら遺体を連れて行き、沼の中へ沈める。
もちろん、沈める前にこの国の状況がわかるようなものは抜いてある。大陸全体の地図とどこそこで傭兵を募集しているという記事。
「……ふむ」
どうせ行く先はないし、傭兵なら仕事さえ選べば短期で動ける。剣を振るうこと自体も別に嫌いではない。殺しは嫌いだが。
「様子を見てみるとしよう」
ギルフォードはまず戦闘した場所まで戻り、そこから足跡を辿る。体重の多いごろつき達の足跡を辿るのは雨上がりではない地面でも難しいことではなかった。
段々木々や草叢が疎らになり、大人が二人ほどは余裕で並べるくらい開けた空間が左右に伸びていた。
流石にどちらへ行ったらいいのかはわからない。
もっとも、悩んだところで結論は出ないので適当に右へと歩き出した時だった。
「よう」
正面の木々の間からがさがさと草を掻き分けて、少年が出てきた。
「町行くなら、逆だぜ」
見れば、さっきごろつきに襲われていた少年だ。
ギルフォードは大して驚いた風もなく。
「そうか。すまないな」
それだけ答えて踵を返した。少年をまったく気にしないその態度に慌てながらも、袋を抱えた子供は懸命に青年の前へと回り込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
青年は足を止めて不思議そうに少年を見る。子供特有の大きな丸い目が真剣に青年を見返していた。
「なあ。あんた、病気に詳しい人とか知らないか?」
「病人がいるのか」
「そうなんだ。でも、この先の町にいるのは金持ち御用達の医者しかいなくて……」
悔しそうに唇を噛む少年。
青年は無言のまま見下ろす。ウィルワートではそもそも貧富の差、というものがほとんど現れない。それは医療に関しても同じだ。
こんなところにも天空と地上に差を見つけてひとつ嘆息。そして、ギルフォードは口を開いた。
「……確証はない。それでもいいなら、容態をみるくらいはなんとかなるかもしれない」
「本当か!?」
驚愕と歓喜に目を見開く少年。袋にはいったパンを落としかけて慌てて抱えなおすと、青年へ問を続けた。
「どこにいるんだ、そいつ!」
「ここにいる。案内しろ」
ギルフォードは直接関係があるわけではない。けれど、兄のフォレスターはウィルワートの医療従事者でギルフォード自身も興味のある分野だったので時折助手としての手伝いをしていた。
「へ!? お、おう……」
まさか剣を振るった青年が医者であるとは思わなかったのだろう。一瞬不意をつかれた表情をした少年は直に左右に伸びる道から外れた獣道へと案内した。
この僅かな邂逅が、青年の運命を変えたとは知らずに。
Fine.