ラートが彼女と会ったのは、彼が護衛する王子が隣国へ訪れた時に紹介を受けたのが始まりだった。
護衛ではあるが彼もまた貴族に名を連ねる者。夜会に出れば、こちらの国の貴族達との交流もある。
彼女もまたそうして知り合った女性の一人だった。
「プリマヴェーラ・ド・セレーノ、と申しますわ」
初めて会った男性に緊張しながら、落ち着いた微笑を浮かべていた。ラートよりいくつか年下であろう少女は、薄紅色のドレスと同色のリボンがよく似合っている。
「ラート・フォン・アウラという。よろしく、フロイライン・セレーノ」
少女は青年の差し出した手をそっと握ってはにかんだ笑みを見せた。
ざあっ、とラートの目の前を薄紅色の花弁が大量に横切った。あの時の少女が身につけていたドレスと同じ色の花弁が、風と舞い踊っている。
腰に剣を帯びてはいるが珍しくラフな格好をした青年は、ぼんやりと樹を見上げる。
すると、その背後から声が聞こえた。
「この花は翅持つ少女の化身なのだそうですわ」
柔らかく優しい声が、ゆっくりと物語を紡ぐ。
「許されぬ恋に身を焼かれた薄紅色の翅を持つ少女が、どうしても愛しい地上の方と共にいたいと願ってしまったのです」
伸びたばかりの草を踏みしめる音。
「そして大切な方と引き剥がされない為に姿をこの樹へと変え、自らのことを伝えるために翅の色を花の色となさった」
ラートがゆっくりと振り返ると、ライトグリーンの大きな鍔付き帽子と同色の肩と腰の部分が膨らんだドレスを着た少女が優しく微笑んでいる。
「お久しぶりですわ。ラート様」
青年と向き合うと、少女はスカートを摘んで優雅に礼をする。
「フロイライン・セレーノ」
「もう婚約者ですもの。プリマヴェーラとお呼びください」
白い日傘を差したプリマヴェーラは眩しそうに薄紅色の花弁を眺めている。
彼女が以前この花が好きだといっていたのを思い出して、ラートは待ち合わせ場所にここを選んだ。偽りではなかったようで彼女は頬を軽く上気させて見つめていた。
その様子を微笑ましく見守りながら、彼はふと、少女に尋ねた。
「……彼女はなぜ、春にその花弁を舞わせるのでしょう」
すると、プリマヴェーラは微笑みを湛えたままで答える。
「あら、簡単なことですわ」
「彼女の恋しい方は春に目覚める方……彼女と同じ存在なのですわよ」
Fine.