隣国との国境にある砦へ兵士が集いつつある中、一足先に現地へ訪れたテルマ王子は戦争における自身の役割、そして指揮についてを伴った参謀役の人間から教え込まれていた。
普段王子への教育役はキルシェだが、戦いともなれば彼には異なる役割がある。
事前の諜報役としての仕事、そして戦闘中においてはアブソエティア国の一番大きなアドバンテージ、理師としての役割だ。
もっとも、前者の事を知っているのはこの場では偶然で知ったラートくらいのものだ。皆はそれぞれの国家間の調整補佐、くちさがない者に至っては臆病風に吹かれたなどと言っている。
慣れない説明役を質問攻めから解放し、この砦における居室へと戻った王子はため息を一つついた。
「あの作戦なら大丈夫なんだろうけど……何か不安だ」
参謀役はそれは初陣の不安からくるものだと言っていたが少年はそれだけでは納得しきれない。
顎に手を当てて思考を巡らせつつ、同じ話を聞いていた青年へと尋ねた。
「ラートはどう思う? 本当に僕の思い過ごしならそう言ってほしい」
ただ沈黙を守っていた騎士の青年は意見を求められて重たい口を開いた。
「特に問題はありません。条件が今と変わらないのであれば、という前提はつきますが」
言われた言葉に王子は軽く目を見張った。
「条件が変わらない?」
「こちらの事情が刻一刻と変わるように向こうの事情も刻一刻と変わります。それに、この国へ攻め込もうとするのに何の切り札もないというのは不自然です」
多方面から物事を見ようとする類の思考訓練は、学校時分の空き時間にラートとキルシェが行った思考法だ。そして王子の教育役が勉強とはまた別に行う分野でもある。
それゆえに、王子も違和感に気付いたのだろう。指摘を受けると非常に納得した表情になる。
「そうか。今出てる情報だけが相手ならあの動かし方でもいいけど、もし切り札とやらが切られたら……余力がほとんどないんだ」
「おそらく通常戦闘を兵士たちのみで構成し、切り札が来た場合はこちらも切り札をぶつけるつもりなのでしょう」
実際、アブソエティアで行われる戦闘のほとんどはこの方法で構成される。切り札には切り札を。特に近年は力の強い理師が現れた為、この方式で十分であることも多い。
ラートの付け加えられた言葉に、王子は大きく頷いた。
「そうだね。確かにキルシェだったらなんとかしてしまいそうだ」
引っかかっていた部分がすっきりしたのか、少年の表情はきれいに晴れていた。残滓を振り払うように大きく伸びをすると、引き続き騎士の青年へと声をかける。
「でも一応別の答えも見つけておきたいな、もし余力を残すならどうしたらいいか。もう少し話に付き合ってくれるかな、ラート」
「私でよろしければ」
嬉々として話し始める王子へ、ラートはいつか話すことになるのだろうと思う。
なんとかしてしまう、のではなく、なんとかするために青年の親友が渡っている危ない綱渡りのことを。
Fine.