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2010.11.1 【琥】
Novel Stage / original
《Oenanthe No.11》
あれから数日、少女は未だに家の中で閉じこもっていた。
もちろん家の鍵を閉められていたり、物理的に拘束されていたりするわけではない。
だが、彼女の側には気まぐれでしか現れないはずの光の球がずっと離れることなく浮いていた。そして、彼女が玄関の扉へ近付くとじっと様子を窺っているのだ。
仕方なく彼女は薬の調合に使う部屋へ向かった。
品質が変質しないように直接日の光が入らない台の上にはいくつかの器具と磨き上げられた石の板。彼女は抱えた数本の瓶から取り出し、乾燥させておいた草を刻み、石を砕く。
手持ち無沙汰で始めた作業であったが、一度やり始めると夢中になれる。
とんとんとリズミカルな音が響く。
『……これで暫くは出ないかな』
開始してから少しの間見守っていた光の球は、くるくると回りながら僅かに開いた窓から外へと抜け出す。家から出られない彼女へ少しでも外の話をしてあげる為に。
光の一筋を見送りながら、少女は薬を作り続ける。
手際よく原料を乳鉢の中で全て混ぜ合わせ、希釈用の水を取りに明かり取りの窓に近付いたときだった。
こん。こん。こん。
すぐ側の窓が、外から叩かれた。
「こんにちは。可愛いお嬢さん」
ここへ案内してから一週間。久しぶりの王子様との再会だった。
一瞬にして少女の頬が赤く染まる。
「こ、こんにち、は……」
「どうしても貴女に会いたかった」
そう言うと彼はそっと窓の外の枠へ小さな布袋を置いた。
「もっと話をしていたいけれど、見つかったら騒ぎになってしまう。だから、これだけ受け取ってもらえるかな」
「……え?」
「私からのプレゼント。貴女に持っていてほしい」
少女が目をぱちくりさせている間に、王子様は本当に愛おしい者を見る優しい目を彼女へ向けた。
「離れていても、私は貴女の側に」
柔らかな微笑を残して、彼は風のように消える。
少女は僅かに悩みながらも窓を開けた。小さな肌触りのよい袋を手に取ると、そっと掌の上で広げる。
夕陽の深く柔らかな茜色の輝きを閉じ込めたような、琥珀のペンダント。
「すごい、綺麗……」
掌の上で揺れる光の中にあの最後の柔らかな微笑を見出して、少女は頬を赤らめたままでそっと微笑を浮かべた。
Fine.