「ねぇ、すずな君」
二人で研究所に向かう途中、心さんが尋ねてきた。
「すずな君が自分のことを紫さんの道具というのは、どうして?」
「僕は造られた物で、造ったのは紫さんだからです」
僕は何の疑問もなく答える。むしろ、何故尋ねられたのかが判らなかったくらい。
しかし、心さんはとても悲しそうな表情を見せた。
表情を変えてしまったことに、僕は思わず問いかけた。
「……何故ですか?」
「え」
「何故、悲しそうなのですか?」
すると、心さんはとても驚いた。足を止めてしまうくらいに。
僕は数歩歩いてからそのことに気付いて振り向く。
「どうしました?」
「……すずな君」
心さんは僕達の間にある数歩を埋めて、荷物を持っていないほうの僕の手を取る。
「すずな君は、どうして私が悲しい理由を聞くのかな」
そう、聞かれる。
僕は少し考えてから答えた。
「何か、言ってはいけないことを言ってしまったのかと考えたからです」
「それだけ?」
念を押すように心さんは言った。そこまで言われると自信がなくなってくる。
そして、気がついた。
僕自身、何故問いを発したのか判らないことに。
「……わかりません」
「そう?」
「はい……僕は、どこかおかしいのでしょうか?」
自分の行った行動の意味がわからないことは、今までなかった。
定期点検では異常が起こったという結果は出ていないが、それが現在正常であることの保証にはならない。
もしかしたら、先程のイレイサーと戦闘した影響が及んでいるのかもしれない。
しかし、心さんは首を横に振った。
「違うの。そうじゃないわ」
金色の瞳が真っ直ぐに僕の瞳を見ている。
「それが感情を持つということ。心のままに行動するということなの」
その勢いは、まるで戦いの時のように必死なもので。
心さんは一生懸命に僕へ何かを伝えたがっている。
「感情……?」
「そう。そして、それがすずな君がただの"道具"じゃなくて"人間"ということなの」
人間だと言われても、僕にはよくわからず首を傾げる。
「でも、僕は造られた物で」
「人造人間、なんだから、君も私も人間なんだよ。人が造った"人間"なんだから」
僕の言葉を遮って、そう、まるで泣きそうな声で心さんは言った。
「お願い。もう自分が道具だなんて言わないで」
何故、心さんがそのことに拘るのかはわからない。
けれど、心さんも僕と同じ人造人間なのに、紫さんを叱ったり、笑ったり、表情の起伏が豊かだ。だとすれば、人造人間にも感情や心というものはあるのだろう。
「わかりました」
こくん、と僕は頷く。
すると、
「よかった……ふふ。でもちょっと言い過ぎちゃったかな」
心さんはとても綺麗な笑顔で笑った。
「……紫さん、いつまで監視カメラ覗いているんですか」
「こんなおいしいところを逃さないわけないだろう!
すずなの自己認識が高まるのはイイコトだしな。うん」
Fine.
※ウティ(outil) フランス語で「道具」の意味。