植物園の中にぽつんとある探偵事務所。
外からの観光客は通りがかるが滅多に視線を向けることのない振るいレンガ造りの建物の中では、二人の少女が机の上に置かれた箱を凝視していた。
「うーん。困ったわねぇ」
片や席についたまま赤い箱の外側をつんつんつつく所長。
「そんなこといってる暇ないですよ!?」
片や完全パニックに陥って、文字通り頭を抱えながらうろちょろうろちょろと落ち着かないアルバイト。
赤い箱は蓋と黒いリボンが外されていて、一辺五十センチの長方形の中身を日の光の下に晒していた。
容量の半分ほどを占めるのは、筆箱などに使われる厚手のビニールの入れ物に入った黒い粉。中に何か入っていても見えないほど大量に詰められている。それをしっかり固定するベルトに繋がっているのは掌サイズの機械。上面にある部分では音もなくデジタル表示が時を刻んでいる。
機械も粉もない部分には場違いなほどに真っ白なカード。小さな鐘を咥えた鳩と金色のラインをあしらった、本来ならウェディングなどに用いられる装飾の中央に、どす黒い紅のペンで描かれている文字。
『建物に出入りがあったら爆発させる。よい花火を。』
カードをひらひらと振り回しながら、所長は肘杖を突く。
「ものすごく素人目だけど、爆弾よねぇ」
うーん、と唸りながらも部屋から出て行くつもりもなく、それどころかカードの端でビニールをつんつんつついている。
「ど、ドリーさんなにやってるんですか!?」
もちろん見ている少女にしてみればとんでもない。慌ててその手をつかんで爆弾らしき箱から遠ざける。
「あら、どうしてそんなに動揺しているの?」
「むしろなんでそんなに動揺してないんですか! 爆弾なんですよ!」
事件が起きなくてつまらないといっていたら急に起こったこの事態。彼女にとってはあまりにも差のありすぎる転換だった。
「こんなのは火がつかなければただのちょっと危険な粉よ?」
「ちょっと危険の時点でただの粉じゃないです!」
「あら、火さえつけなきゃいいのよ」
ふふふ、と普段とまったく笑みを浮かべると引き出しを開けて中を探す。
「な、何やってるんですか?」
「ちょっと探し物。ねぇ、喉渇いたからお茶入れて? 給湯室なら問題ないでしょう」
がさごそやりながら言う様子は日常とまったく変わりない。
あまりの変化のなさにパニックに陥った少女も少し落ち着いて、結局言われた通りに部屋を出て行く。
ぱたぱたと普段よりは少し騒がしい足音を見送りながら、所長はすっと引き出しの中から手を出した。
実は迷うことなく最初から持っていた大きなカッターの刃を出しながら。
「はーい、お茶はいりました、よ……」
「お疲れ様。ちょうど一汗かいたところよ」
少女が戻ってきた時には、所長がビニールに入った火薬へ如雨露の水をかけているところだった。
一瞬、目の前の状況を把握できなくなる。
「なに、やってるん、です、か?」
鼻歌すら歌っている彼女は、少女が入ってきたのに気付いてにっこり笑う。
「火薬を使えなくしているだけよ。実はもう導火線も抜いちゃったんだけど」
「え、え、え!?」
再び先程と同じようなパニック状態に陥りかけた少女へ所長はあっさり言う。
「カードを見せたかったのはわかるけど、これでは火薬を抜いてくださいって言っているようなものよ。爆弾というのは爆薬に引火させて、初めて爆弾としての力を持つのだから」
あなたに見せると止めそうだから見せなかったけど。
あっさりそういう所長に、少女は気の遠くなる思いだった。
Fine.