それから、彼らはシャーマンの拠点へ留まった。
青年たちはアルカナを集める為の情報が必要だったし、シャーマンたちは"占いで現れた"為に客分としてもてなすのは当然のことと考えているようだ……本当のことはわからないが。
もちろん彼らも食料の確保等出来ることは手伝う。
そして名前をあかしてから、ルヴニールは夜にテントを抜け出して空を見上げていることが増えた。
その夜も青年はこっそり宵闇の空気へと身を晒す。
かといって遠くへ出かけるわけでもなく、てこてこと歩いて近い木へ。
背を預けるがしっくりこなかったのか、ひょいひょいと身軽に一番太い枝へと登る。
枝の上で腕を重ね、頭を預けた。星明かりでかすかに浮かび上がる二十代半ばの顔は、悩んでいますと書いてあるかのよう。
ぼんやりと紅蓮の瞳が空を彷徨っている。
雲で濁った空がからところどころ見える星を追いながら。
そのまま、どれだけ遠くを見ていただろうか。
木の幹がコン、コン、と鳴った。
しかし、青年はその音に気付かない。
少し経つと、再びコン、コン。
するとはっきりとではないか何か気付いて、ふと上体を起こす。
自然と下を向いたその目線の先にはごく近くにカイムの姿があった。枝はそんなに高い位置にあるわけではなく、男性の身長もそれなりに高かったためだ。
「……あれ?」
ぱちくり。
「いつの間にっ!?」
そこで初めてルヴニールは相手を認識し、急にその体が傾いぐ。驚いたことでバランスを崩したのだ。
「わわっ!」
『なにをやっている!』
真っ逆さまに落ちるはずだった青年の体は男性によって救い上げられ、地面への直撃を免れる。
それでも距離がなかった分対処が遅れ、二人とも軽く体を大地にぶつけた。
「いったぁ……でも助かったよー。ありがとーカイム」
先程の虚ろな表情はどこへ行ったのか、今の青年は再び微笑んでいた。
その笑みを、男性は厳しい表情のまま見ている。
「えっと……」
怒っているらしい、ことはルヴニールにもなんとなくわかったようだがその理由は悟ることが出来ない。
「……言いたい事があるなら、言ってくれると嬉しいかなー。とか」
闇の中。微笑んだまま視線を合わせて青年は言った。
「カイムの声、聞こえるから。私」
すると、男性が僅かに驚いた。
青年は続ける。少しだけばつが悪そうだ。
「さっきの怒ったの、聞こえたから。元々は話せる人だったんだね……」
『……これも、契約だからか』
「え?」
言葉へ、ルヴニールが反応する。夢と同じ声であること、そして何より契約した時の"線"がこの声の持ち主がカイムだということを青年へ告げている。
『私は別の契約を交わした代償に声を失った。その時も契約相手には私の声が届いた』
「そっか……あんまり、聞いちゃいけないことだったかなぁ」
青年の目線が地面へ向かうと、男性は首を横に振る。
『いや。気にするな』
いつぞやのようにカイムはルヴニールの頭を軽く撫でた。
『むしろ自分のことを気にしろ……そんな顔するくらいなら』
少し上がった顔はまずかったかな、という表情を浮かべている。
「そんなに変な顔してたかな……うん。大したことじゃないんだけど」
一瞬、きょとん、とした後、彼は困惑の混じった微笑みになった。
「私、遺跡からこの世界へ飛ばされたって言ったよね。でも、なんで遺跡に行ったのかが記憶にないんだ、それだけ」
言い切った後、ルヴニールはいつもより明るい表情を浮かべた。そこには悩んでいた時の空虚は一切ない。
『いいのか』
カイムの即座の返答へ青年もまた直に答える。
「うん。話したらちょっとすっきりしたー」
その表情は、もう崩れない。
『……そうか』
男性は立ち上がり、青年へ手を差し伸べた。
それ以降、ルヴニールが夜に抜け出すことはなくなったという。
To be continued...